冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
(どういう環境で育ったら、あんな凶暴な性格になるのかしら……)

もし、フィラーナがミラベル達に楯突いた場合、ドレスを切る算段でハサミを用意していたのだろう。

 フィラーナは納屋の壁の隙間から吹き込んできた風に少し身震いすると、足を拘束している縄を解き始めた。次に立ち上がって、身体についた土埃を払う。

 職人たちが丹精込めて作ってくれたドレスがこんなことになっていまい、申し訳なさと悲しさが込み上げてくる。しかし、ミラベルの思惑は大きく外れ、このまま誰かに発見されるまで泣き寝入りするようなフィラーナではなかった。

 まずは、このあられもない恰好を何とかしなければ。このまま外に出たとしても、離宮を見回る衛兵に見られでもしたら、それこそ未婚の貴族令嬢としては一大事だ。

 フィラーナはぐるりと納屋の中を見渡した。やはり庭園を管理するための小屋らしく、手入れ道具などが壁に所狭しと置かれている。その端に備え付けの棚を見つけ、フィラーナは近づいてみた。たまに庭師がここで着替えをするのだろうか、そこには質素だがきちんと洗濯のされた木綿のシャツとこげ茶色のズボンが置かれている。

(申し訳ないけど、ちょっと拝借しよう。あとでちゃんと洗って返すから)

 フィラーナはコルセットの上から素早くそれらを身に着けた。男物なので身体に合わなかったが、不満を言っている場合ではない。シャツをズボンの中に入れても腰の部分が余るので、ずり落ちないように縄を腰に巻き付け、固定する。しかし、靴はどうしようもないので、ドレス用の自分の靴を履いて、外に出た。

(あ、ルイーズ……あれからどうなったかしら?)

 自分に突如降りかかった災難で忘れてしまったが、彼女は今もセオドールと一緒にいるのだろうか。フィラーナは少し様子を見に行くために、離宮ではなく森の奥へと足早に進んだ。
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