冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
「知り合いだったのかい?」と尋ねるエイブラムに、バートは簡単に経緯を説明してから、次にフィラーナに人懐こそうなブラウンの瞳を向けた。

「君、もう大丈夫なの?」

「ええ……さっきはどうもありがとう」

 フィラーナが柔らかく微笑むと、バートはどこか落ち着かなさそうに視線を逸らした。

「じゃあ、先生、俺行くよ。弟の雄姿、あとで皆にも語るから」

 バートが足早に食堂を出ていくのを横目に見ながら、フィラーナはエイブラムに尋ねた。

「あの、大会って何ですか?」

「ああ、数か月に一度開催される剣術を競う大会ですよ。勝ち残って、さらに素質があれば王宮仕えの道が開かれるとあって、若者が多く集まるんです。時々、お城から役人のお偉方も見学に来られるようで、参加者は皆、自分の力を発揮しようと意気込んでいるんです」

(お城から役人……)

 フィラーナはハッとして椅子から立ち上がると、頭を深く下げた。

「院長先生、また改めてお礼に伺います。今日はこれで失礼します……!」

 ヒール靴の入った麻袋を手に取り、急いで食堂を飛び出す。

「あの、バートさん!」

 孤児院を出たところで、古びた鉄扉を抜けようとしていたバートに駆け寄る。

「今から、大会に行くんですか?」

「え、あ、うん。そうだけど……?」

「その大会って、もしかしたら王太子様や王宮騎士団の方がお見えになったりしますか?」

「んー……、さすがに王太子様は無理だと思うけど、騎士のうちの誰かは来るかもしれないな」

「私にその場所、教えてもらえませんか?」

< 133 / 211 >

この作品をシェア

pagetop