冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
闘技場内は屋根がなく、直射日光のもとでじっとしていると、次第に頭頂部が暑くなってくる。バートは肩掛け荷物の中から大きめの茶色の布を出して、フィラーナに手渡してくれた。
「これ、よかったら頭から被るといいよ。君、肌の色白いし、焼けたら困るだろ? ……それにこんな野郎の多い場所だと目立つかもしれないから……綺麗だし……って、そうじゃなくて、か、髪の色が、さ」
途中からはよく聞き取れず、なぜバートの顔が少し赤くなっているのかわからないフィラーナだったが、彼の親切心は伝わったので、快く布を受け取った。それをスカーフのように広げて頭全体を覆うと、幾らか涼しくなった。
満席状態になった観客席の中には女性も割といたし、親子連れもいた。友人か恋人か、またはバートのように家族の応援に駆け付けた者も多いだろう。
どこかにユアンがいないだろうか、と目で探していた時。
どこからか強い視線を感じたフィラーナの背筋に、突然緊張感のようなものが走った。この闘技場の観客席は、低い中央の舞台を中心とする取り囲むような階段状だ。誰だろう、と視線を左右に動かすと、向かい合う右前方の観客席に座る男が、じっとこちらを見つめていることに気づいた。
肩よりは少しだけ短い、真っすぐな黒髪の男で、おそらくまだ若い。距離があるので顔立ちの詳細はわからないが、長めの前髪の奥から放たれている鋭い眼光ははっきりと感じ取ることができる。
(誰なの……気味が悪いわ……)
フィラーナは、フイと視線を逸らすと、あまり考えない様にして、横のバートに大会について聞いてみた。一対一の勝ち抜き戦で、優勝者のみがやっと騎士選考の段階に進めるという。
やがて、最初の一組目の参加者が舞台に現れ、会場の空気は歓声とともに一気に熱を帯びた。
「これ、よかったら頭から被るといいよ。君、肌の色白いし、焼けたら困るだろ? ……それにこんな野郎の多い場所だと目立つかもしれないから……綺麗だし……って、そうじゃなくて、か、髪の色が、さ」
途中からはよく聞き取れず、なぜバートの顔が少し赤くなっているのかわからないフィラーナだったが、彼の親切心は伝わったので、快く布を受け取った。それをスカーフのように広げて頭全体を覆うと、幾らか涼しくなった。
満席状態になった観客席の中には女性も割といたし、親子連れもいた。友人か恋人か、またはバートのように家族の応援に駆け付けた者も多いだろう。
どこかにユアンがいないだろうか、と目で探していた時。
どこからか強い視線を感じたフィラーナの背筋に、突然緊張感のようなものが走った。この闘技場の観客席は、低い中央の舞台を中心とする取り囲むような階段状だ。誰だろう、と視線を左右に動かすと、向かい合う右前方の観客席に座る男が、じっとこちらを見つめていることに気づいた。
肩よりは少しだけ短い、真っすぐな黒髪の男で、おそらくまだ若い。距離があるので顔立ちの詳細はわからないが、長めの前髪の奥から放たれている鋭い眼光ははっきりと感じ取ることができる。
(誰なの……気味が悪いわ……)
フィラーナは、フイと視線を逸らすと、あまり考えない様にして、横のバートに大会について聞いてみた。一対一の勝ち抜き戦で、優勝者のみがやっと騎士選考の段階に進めるという。
やがて、最初の一組目の参加者が舞台に現れ、会場の空気は歓声とともに一気に熱を帯びた。