冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
「それで、今度はお前の番だ」

 ウォルフレッドはフィラーナの手からカツラを取り戻すと、真剣な眼差しを向ける。

「何があった?」

「ええと、それは……女同士のいざこざが発端で……」

 そもそもは“王太子の寵姫”だと勘違いされ、このような顛末になったなど、さすがに言いにくい。それに、原因は自分だとウォルフレッドが必要以上に責任を感じてしまうのではないかと思うと、どうしても歯切れの悪い言い方になってしまう。

「はっきり言え。隠すな」
 
 しかし、しびれを切らしたウォルフレッドの強い視線に抗えず、フィラーナは躊躇しながらも、城内での出来事を話した。

 ミラベルを始めとする令嬢たちの過激行為を、眉間に皺をよせて聞いていたウォルフレッドだったが、一層怒りの形相になったのはテレンスに捕まりそうになったが逃げだしたというくだりだった。

「どこか、触られたのか⁉」

 ウォルフレッドが冷静さを欠いて、フィラーナの両肩を掴んだ。一瞬痛みに顔をしかめたが、すぐに微笑みを浮かべて首を横に振る。

「いいえ、少し腰に手を添えられたくらいです。すぐに振り切って、無事に逃げられましたから。それより、テレンス王子のすねを思い切り蹴りつけてしまったんですけど、あとで何をされるか心配で……」

「お前を手籠めにしようとしたんだから、それぐらい当然の罰だ。もっと他の所を蹴って再起不能にしても良かったくらいだ。まあ、それはあとで俺がやっておく。お前には金輪際指一本触れさせないから、安心しろ」

「はい……」

 フィラーナはウォルフレッドの頼もしい言葉に、さらに表情を和らげた。
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