冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 一応状況は呑み込めたが、フィラーナは拍子抜けしてしまい、しばらく言葉を発することが出来なかった。ウォルフレッドとはもうしばらく会えない、と胸が締め付けられる思いで一晩眠れぬ夜を過ごしたというのに。ベッドの中でひとり、声を押し殺して流した涙を返してもらいたい気分だ。

 とは言え、これからもウォルフレッドのそばにいられることは素直に嬉しい。つい頬が緩んでしまい、ムフフ、と思わずにやけてしまった自分をレドリーが面白そうに観察していることに気づいたフィラーナは、慌てて表情を引き締め、小さく咳払いする。

「……それで、私はここで何をすればいいのでしょうか? まさか、このまま王太子妃になってしまうなんてこと、あり得ませんよね?」

「多少、周囲から誤解を招くことはあるかもしれませんが、フィラーナ様の肩書きは正式な王太子妃ではなく、あくまで“最終選考に残った候補者”です。これからしばらくここでお過ごしいただき、王太子妃に相応しい人物かどうか殿下から見極められます。ですが、最終的には“落第”とういうことでお帰りいただきます」

「……落第……あまりいい響きではありませんね……」

「ご心配なく。すべてシナリオだとお思いください。殿下は心配なさっていたようです。自分が迎えに行く間にフィラーナ様に悪い虫が寄り付き、そのままかっさらわれてしまわないかと。そうなる前に、誰もが手出しをしにくい状況を作ってしまおうというお考えに方向転換されたようです」

 確かに、格式を重んじる貴族にとって『最終選考に残っていながら落とされるとは、何かやらかしたに違いない』と噂されるかもしれない娘を嫁として迎えるには、少し体裁が悪いだろう。
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