冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 午後のお茶の時間を過ぎたあたりで、フィラーナが続き部屋になっている自分専用の書斎の中を、本を片手に外国の言葉を唱えながら、軽やかな足取りでひとりクルクルと舞っていた時のこと。

「見事な発音だな。エスタレカ語の詩か」

 聞き慣れた低い声が耳に届き、フィラーナは足を止めて振り返った。入口の扉付近からこちらに近づいてくるウォルフレッドの姿を視界に捉える。

「ウォル、いつからいたの……?」

「さっき部屋を訪ねたら隣りから美しい発音の外国語が聞こえてきて、しばらく聞いていたくなった。春の訪れの喜びを謳った詩だな。それでダンスのステップのような真似をしていたのか」

「ええ、つい興奮してしまって……。実家にいた時はなかなか手に入らなかった本が、ここにはたくさんあるんですもの。読みたかった本ばかりだわ」

 フィラーナはぐるりと部屋を見渡した。窓と扉以外の壁一面に棚が備え付けられていて、本が天井近くまでびっしりと埋まっている。

「ほら、こっちにはロシューム語の教本もあるのよ。せっかくだから、ここにいる間にでも少しずつ勉強しようと思うの。ホーグの港に時々ロシュームからの船も停泊してたんだけど、彼らが何を話してるのかよくわからなくて悔しい思いをしたことがあるのよね」

 うきうきとした様子で、フィラーナはすぐ後ろの上段の棚に向かって手を伸ばす。しかし、かなり高い所にあるのでなかなか届かない。すると、ウォルフレッドの手がスッと伸び、簡単に目的の本を取り出した。

 礼を言おうとフィラーナが振り向くと、ウォルフレッドから真剣な眼差しで見つめられていることに気づく。
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