冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 ふたりは書斎をあとにし、絨毯が敷かれた廊下を進んでいく。少し離れた後方から付き従うのは、フィラーナの護衛を任されることになったユアンである。彼女も護衛についてはもう異議を唱えなかった。

 階段を降りる際には、フィラーナの手をウォルフレッドが優しく引く。出くわした侍女たちは皆一斉に驚きの表情を浮かべたたが、一瞬で頭をさげ壁際に寄り、ふたりが前を通り過ぎるのを待つ。これまで一向に女性を寄せ付けなかった王太子が可憐な令嬢を引き連れ、さらには気遣うようにエスコートしているのを目の当たりにした侍女たちの反応は、ある意味自然のことと言えよう。

 背中にそんな視線を感じ、フィラーナは静かに口を開いた。

「ねえ、ウォル、私達あまり仲がいいところを見られたら、まずいんじゃないかしら……?」

「なぜ?」

「だって、私はいずれここを“追い出されてしまう女”なのよ。それまで仲が良かったのに、いきなりそんなことになったら、周囲が変に勘繰るんじゃないかしら。それなら、最初から距離があった方が『ああ、やっぱりか』っていう空気になりやすいんじゃない?」

「寂しいことを言うんだな」

「私だって、こんなこと言いたくないわ」

 フィラーナは少しすねたように小さく頬を膨らませる。それを見たウォルフレッドが小さくため息をついた。

「そんなかわいい顔を見せられたら、人前だろうと関係なくここで抱きしめたくなるからよせ」

「え?」

「お前の言いたいことも、俺を気遣う気持ちもわかっている。今日は初日だから城を少し案内している、ということにでもしておくか。明日からお前の提案を受けよう。だが、ふたりきりの時は覚悟しておけよ」
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