冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 フィラーナを見おろして、ウォルフレッドが口角を上げる。その艶めいた笑みに、フィラーナの心臓はドキンと跳ね、身体が一気に熱くなった。

(え、待って、ウォルってこんなこと言う人だったの……? ユアンさんに聞かれてるかもしれないのに……!)

 日頃の冷淡さゆえに“氷の王太子”と呼ばれている人物と目の前で甘い表情を見せるこの男は、本当に同一人物なのか。

 赤くなっているであろう自分の顔を見られたくなくて、フィラーナは慌てて顔を逸らす。
 
 ウォルフレッドはお構いなしにフィラーナの手を取り、再び廊下を歩き出す。その角を曲がった時、前方から誰かこちらへ向かって来るのが見えた。
 
 フィラーナが初めて見る、グレーの髪色をした年配の男性だ。やや猫背で体つきは細いが、上質な紺の上衣と後ろに四人も従者を従えている様子から、それなりの身分の者だと察しがつく。

「これはこれは王太子殿下……」

 向こうもウォルフレッドたちに気づき、歩みを止めて恭しく頭を垂れた。

 ウォルフレッドの纏う空気が一瞬にして、氷のような冷たさへと変わる。それを感じ取ったフィラーナは歩く速度を緩めようとしたが、ウォルフレッドはそのままフィラーナを引っ張るようにして無言で前に進んでいく。

 その年配者は、ウォルフレッドが近づいているのがわかりながらも、廊下の中央に立ったまま端に寄ろうとしない。まるでわざと立ちはだかっているような様子に、フィラーナも戸惑いと不快感を抱かずにはいられなかった。
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