冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 フィラーナはふとウォルフレッドの顔を窺ったが、その表情はいつもと変わらず平然としたまま。おそらく、こうした状況は彼にとって当たり前であり日常なのだと思うと、フィラーナの胸に悲しみの波が押し寄せてくる。

 そうしているうちに、いつの間にか城内にある騎士団の鍛練場に到着した。撃ち合う金属音が鳴り響き、数人の騎士が剣を交えている。フィラーナは彼らの気が散らない様に少し離れた柱の陰から見学させてもらうことにした。だが、いつもなら心躍る光景なのに、先ほどのウォルフレッドの話の内容のせいか、気分が高揚しない。

 再び自室に戻る途中、フィラーナはウォルフレッドの腕をぎゅっと掴んだ。

「ねえ、ウォル……私に何か出来ることはない? いつもいつも気を張っていたら疲れてしまうわ。私は無力だし、こんなこと言うのはおこがましいってわかってるんだけど……」

 ウォルフレッドは立ち止まると、力なく瞳を伏せるフィラーナの肩を抱き寄せる。

「さっきの話で余計な心配をかけたな。悪い」

「いいえ、何も話してくれない方が辛いわ。どんなことでも目を背けずに、ちゃんと知っておきたいもの」

「そうか。そういう真っすぐなところも、俺がお前に惚れている一因だ。俺のことなら心配するな。手をこまねいて何もしていないわけじゃない。それにお前は無力なんかじゃないぞ。フィラーナがそばにいれば、俺はいつだって強くなれる」

 よどみのない声がフィラーナの胸に響く。先ほどから心に掛かっていた靄が、少しずつ晴れていくようだった。

(私ももっと強くならなきゃ……どんなことがあっても、いつでもウォルの“安らげる場所”になるために)

 フィラーナは優しく微笑み返すと、そっと自分の手をウォルフレッドの腕に絡ませた。


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