冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
「ルイーズ、何かあったの? 心配事?」

 フィラーナがそっと声を掛けると、ルイーズは弾かれたように顔を上げたが、なぜか視線を彷徨わせたあと、再び下を向いた。

「……何でもないわ」

「大丈夫? 顔色も優れないみたいだし。体調が悪いのに私との約束だからと無理をさせてしまったのね」

「そんな、フィラーナのせいじゃないわ……」
 
 そう言って口ごもるルイーズに、フィラーナは気遣うような眼差しを向けた。

「本当に何かあったのなら相談に乗るわ。もしかして……セオドール殿下のこと?」

 ルイーズは顔を上げ、フィラーナをじっと見つめていたが、沈黙を破るように小さく口を開く。

「……セオドール様じゃなくて、王太子殿下の噂を……このままじゃフィラーナが」

「噂……? 私……?」

 フィラーナがやや目を見張って聞き返すと、ルイーズはハッと我に返ったように身体を揺らし、手元の刺繍道具を裁縫箱に片付け始めた。

「……ごめんなさい、今日は失礼するわね」

 馬車まで送るというフィラーナの申し出を断ると、引き留める間も与えずにルイーズは慌ただしく部屋を出て行ってしまった。

「お珍しいですね、ルイーズ様はもうお帰りですか?」

 呆然とするフィラーナに、入れ替わるように入室してきたメリッサが声を掛ける。そして、「これは……」とソファに残された青いリボンを拾い上げ、フィラーナに見せた。それは、ルイーズの裁縫箱に飾りとしてあしらわれていた物だ。

 次に来た時に渡そうか。だが、先ほどのルイーズの様子が頭から離れない。何か悩んでいるのは明らかだ。

(それに、ウォルと私に関することで、何を言おうとしていたの……?)

 フィラーナはリボンを受け取ると、すくっと立ち上がって扉へと足早に向かう。王都に来て初めて出来た友人なのだ。何か心配事があるなら、話を聞いてあげたい。

「追いかけて渡してくるわ。すぐ戻ってくるから、ユアンさんにはここで待機しててもらうよう伝えて」

 護衛がそばにいれば気兼ねして口を閉ざし、何も話してくれなくなるかもしれない。

 フィラーナはメリッサの返答も待たず、部屋を飛び出した。

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