冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 階段を駆け下り、ルイーズの姿を探す。すると、廊下の先にルイーズと同じ紺色のドレスを見つけ、あとを追いかけた。

「ルイーズ……!」

 その声にビクリと反応して、ルイーズが振り返った。驚きで瞳を見開いたまま、懸命に走ってくるフィラーナを凝視する。

「これ、忘れ物……」

「わざわざ……ありがとう」

 差し出されたリボンを受け取ってすぐに踵を返そうとするルイーズの腕を、フィラーナがサッと掴んだ。

「ルイーズ、やっぱり様子がおかしいわ。何かあったなら話してくれない……?」

 ルイーズは俯いたまま何も答えない。

「王太子殿下の噂って何なのか教えて」

 すると、ルイーズは急に険しい表情を見せたかと思うと、次は困惑したように首を何度も小さく横に振った。

「……こっちに来て」

 今度はルイーズがフィラーナの手を取り、先へと進んでいく。

 角を何度か曲がり、いつの間にか人気のない場所の一室へたどり着いた。カーテンで窓は締め切られ、使われていない物が乱雑した物置のような薄暗い部屋の中で、ようやくルイーズはその手を離した。

「ごめんなさい、廊下では話せないから」

「いいのよ。それより、一体どうしたの?」

 ルイーズは躊躇していたが、ようやく重い口を開く。

「……王太子殿下がイルザート王国の血を引いていらっしゃるのは、フィラーナも知ってるわよね?」

「ええ……」

「殿下が昔のイルザートの重鎮だった人たちと密通していて、王太子の地位を利用して、お母上の名誉回復と国家転覆のために陰で準備を進めている、って噂を聞いたわ。こんなことが民に知れたら大変よ。反乱が起きて、フィラーナも捕らえられてしまうわ」
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