冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
「サイモン、王妃様を立たせてやりなさい」

 その言葉に、ギョロ目の男が素早く動き出す。サイモンというのがこの男の名なのだろう。しかし、フィラーナはそのあとのサイモンの行動に驚きを隠せなかった。彼は自分ではなくルイーズの腕を取って立たせたあと、わざとらしく彼女に向かい恭しく頭を下げたのだ。

 グランも当然のことのように、その光景を見ている。フィラーナだけが疑問を感じているのだ。

(ルイーズが……未来の王妃……?)

 呆然としているフィラーナに、グランが口元を歪めながら笑みを浮かべた。

「ご自分が王妃の扱いを受けるべきだったはずでは、とショックを受けておられるのかな?」

「……まさか。私はそんな身分に値する人間じゃないわ。ただ、単純に驚いているだけよ。あなたが、ルイーズに何か吹き込んだのね? イルザートによる国家転覆なんてでっちあげも、あなたが考えたことでしょう?」

 フィラーナは硬い表情で、グランをじっと見据えた。

「ほう……自分が劣勢でありながらまだそのような気概を見せるとは、なかなか肝の据わったお嬢さんだ。だが、でっちあげではない。王太子はこの国にいずれ害を及ぼす。私はこの国の元重鎮として、国の平和を願っているだけだよ」

「この国に害を……? 自分に害を、の間違いでしょう? 過去の過ちから逃れられないことを恐れて」
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