冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 窓からの陽の光がたっぷりと降り注ぐ廊下を進んでいくと、重厚な両開きの木製扉が現れた。

(ここが謁見の間……)

 妃選びに全くといっていいほど興味のないフィラーナでさえ、さすがにこの時ばかりは全身に緊張が走るのを感じた。生まれて初めて、自分の国の最高位である王族の人間に会うのだ。

 ゆっくりと扉が開かれ、明るく広い空間がフィラーナの視界に飛び込んできた。上流貴族の舞踏会場である大広間など遠く及ばないほどの規模の大きさに圧倒されながらも、真っ直ぐ中に伸びた深紅のじゅうたんの上をソロソロと歩く。等間隔に並ぶ八本の壮麗な柱が高い天井を支え、部屋上部を取り囲むステンドグラスは色彩豊かな柔らかい光に包まれている。そんな空間の中ひときわ存在感を放っているのが、じゅうたん先の上段に置かれている金色に輝く美しい玉座で、その背後の天井からは王家の紋章である、翼を持つ獅子のタペストリーが掲げられている。

 だが、王太子の姿はまだそこになく、侍従たちが壁際にひっそりと立っているだけだ。

 その中から、やや長めの褐色の髪をきちんと後ろに流した、三十歳ほどと思われる男性がフィラーナたちの前に歩み出てきた。眼鏡をかけ、上級文官の証である深緑の上衣を身に包み、知的そうな面差しに柔和な微笑みをたたえた彼は、礼儀正しくフィラーナたちに一礼した。
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