冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
(ともかく、昨日のお茶会の雰囲気は苦手だったけれど、王家の相関図を理解出来たので良しとしましょう。さて、今日は何をして過ごそうかしら)

 フィラーナが自室で朝食後の紅茶の香りを楽しんでいる時、メリッサが慌てた様子で入ってきた。

「フィラーナ様、このあと、王太子殿下が離宮に渡られて、おひとりずつお会いになるそうです……!」

(え……ええっ、何で……?)

 あまりの突然の知らせに、フィラーナの手から思わずカップがずり落ちそうになった。それをメリッサは素早く受け止めると、まだ飲みかけにも関わらず食器類を片付けていく。

「すぐにドレスをお選び致しますね。お髪も整えさせていただきます」

 トレイを持って退出しようとしたメリッサがくるりと振り返って嬉しそうに微笑んだ。

「殿下とお近づきになる滅多にない機会ですもの。頑張ってくださいね」

「……えー、まあ、そうね……」

 何も知らないメリッサに、フィラーナは言葉を濁しながら苦笑いするしかなかった。


***

 待ち時間がこんなにも長く感じられたことなど、人生で初めての経験だった。

 やがて順番が回ってきた。王太子の待つ離宮内の応接室の扉の前で、薄紫の柔らかい色合いのドレスに身を包んだフィラーナは大きく深呼吸する。

 あれほど妃選びに関わらないと明言していたのに、王太子のこの行動はどういうことなのか。きっと、このままではいけないとの臣下の諫言を受け入れたのかもしれない。

(ただの気まぐれか単なる適性審査か……まさか、私を捕らえに来たわけじゃないわよね。もう考えても無駄、こうなったらともかく、微笑で乗り切るしかない)

 ある程度腹をくくり、背筋を伸ばす。侍従に扉を開けてもらい、フィラーナは戦いの場に向かう心持ちで顔を上げ、前を見据えて中に入った。
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