冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
「殿下、何か仰いませんとフィラーナ様が困惑されてしまいますよ」

 突如発せられたレドリーの穏やかな口調に、ウォルフレッドはハッとしたように数回瞬きをすると、やや遅れて頷いた。

「そうだな。……レドリー、少し席を外せ」
「かしこまりました」
「え、そんなっ……!」

まさかいきなり、ふたりきりにさせられるとは考えてもみなかったフィラーナは、驚いて顔を上げた。命令通り隣室の扉に消えていくレドリーの姿に向けて、思わず引き留めるような視線を送ってみたものの、その願いは届くはずもない。

(……行っちゃった……)

どうしていいかわからず、扉を見つめていると、ウォルフレッドが小さく息を吐いたのがわかった。

「……お前は俺といるのが苦痛なようだな」

フィラーナが視線を戻すと、ウォルフレッドは腕組みを解いて少し前屈みになり、じっと見つめてくる。ほんのわずかだが距離が近くなり、フィラーナはすぐに視線を外して俯いた。

「いえ、そんな滅相もありません……」

ここで機嫌を損ねてはならないと、ありきたりな言葉で返す。

「では、なぜ俺と視線を合わせない?」

「それは……私は田舎貴族の身で粗忽者ですので、王族の方と同じ場所にいることすら恐れ多いのです」

(近くで真正面から顔を見られたらマズイからですよ!)

と本心を言えるわけもなく、またしてもその場しのぎの発言でやり過ごした。
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