冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 再び沈黙がふたりの間に流れたが、やがてウォルフレッドが静かに口を開く。

「俺はまどろっこしいのは苦手な性分だ。だから単刀直入に聞く」

「は、はい……」

「港町で一度、俺と会っているな?」

 フィラーナの頬がわずかにピクリと動く。

(私のこと、バレてる……!)

しかし、この類いの質問が飛んでくるだろう、と予め心構えをしていたおかげで、思ったより冷静に受け止めることができた。

(やっぱり、この人が港町で会った人……)

 これで『同一人物ではないかもしれないわずかな可能性』は完全に打ち消された。となれば残された道はひとつ、この場を何とかして乗り切ること。明確に否定の言葉を口にしなければ、あとから、“ライラ”がフィラーナ本人だと発覚しても虚偽罪に問われる可能性は低いはず。……たぶん。

「……何のことでございましょう?」

 フィラーナは努めて冷静な声で返した。ウォルフレッドの強い視線と目を合わせてしまったら気圧されてしまいそうなので、顔は俯いたままだ。

「その時は違う名だったが。馬鹿がつくほどの世話焼きで、跳ねっ返りな娘だった」

 ウォルフレッドはフィラーナの言葉を無視して話を続ける。しかし、フィラーナもここで折れるわけにはいかない。

「……そのようなお話をされましても、私は何とお答えしたら」

「それがお前ではないかと聞いている」

「以前に殿下とお会いしていましたら、忘れるはずございません」

「だったら思い出せ。少し待ってやる」

「そんな……お忙しい殿下のお時間を私ごときに割いていだだくわけにはまいりません」

 フィラーナは遠慮がちに首を横に振った。それはもう、淑女の振る舞いの模範のように、どこまでもしおらしく。

「本当に覚えていないのか?」

「そのようなお言葉掛けをいただいて、嬉しく思わない女性がいるでしょうか。世の女性は、殿下と少しでも繋がりを持ちたいと願っております」
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