冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
「とても素敵な絵ですね。これはあなたが……?」

 フィラーナが褒めると、少年は微笑みを浮かべながらも、どこか気恥ずかしそうに頷いた。

「ここにはよく鳥が遊びに来るので、時々写生するんです。いつもは誰もいないんですが、人の声が聞こえたので」

(もしかして……)

 少年のことを、王宮を訪れた貴族の子息かと思っていたフィラーナだったが、違うと確信した。ここには“いつも”来られる環境にある者、それは城に居住する人間のみ。そして服装や雰囲気、さらに年恰好を脳内で照合した結果、お茶会で耳にした人物にたどり着く。

「もしや、セオドール殿下であらせられますか?」

「そうですが、あなたは……?」

 少年が肯定したので、フィラーナはドレスを持ち上げ、腰を低くした。
 
「お初にお目にかかります。私はエヴェレット侯爵家の長女、フィラーナと申します」

「顔を上げてください。あ、もしかして、離宮の方から歩いてきたのですか?」

 はい、とフィラーナが頷くと、セオドールの顔に輝きが灯った。

「今、離宮には王太子殿下のお妃になられる方がお住まいだと聞いています。敬愛する王太子殿下のお妃様がどんな方なのか、一度お会いしたかったのです。フィラーナどのがそうなのですね?」

「いいえ、まだそうと決まったわけではなく、私は候補のひとりにすぎません」

 そう答えてみたものの、フィラーナは複雑な思いだった。もうすぐ、ここを出る申請をして、候補からも外されることになる。なにより、選ぶ本人から嫌われてしまったのだから。

(敬愛する王太子殿下、か……。きっと家族として、とても大切な存在なのね)

 セオドールはウォルフレッドの甥に当たる。あの不愛想な彼が甥の前ではどんな顔を見せているのか、フィラーナは少し気になった。
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