冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
「テレンス、ここで何してる」

 地を這うような低い声に、周囲の空気がびりびりと震えるのがわかる。

 だが、テレンスはわざとらしく、おどけるように肩をすくめた。
 
「見てわからないか? ここで会う約束をしてた。逢瀬と言った方がわかりやすいか。こちらのお嬢さんが、お前に冷たくされて落ち込んでたから、慰めてたところだ」

「逢瀬だなんて……!」

 ましてや約束などしていたわけがない。あまりにも自分本意なテレンスの発言に、フィラーナは憤慨して飛び出していきそうになったが、ウォルフレッドに腰をガッチリと抱えられているので身動きが取れない。

「それは違います、その方はたまたまこの庭に出てきただけです……!」

 近くで別の声が聞こえ、フィラーナは身をよじりながら振り返る。すると、そこにはセオドールがふたりの騎士に守られるように立っていた。騎士のうちのひとりは面識のある若者ーーユアンで、目が合ったフィラーナに軽く頭を下げる。

「セオドールから知らせを聞いた。お前が妃候補のひとりに言い寄っている、と」

 セオドールが急に姿を消したのは、ウォルフレッドにこのことを伝えるためだったのだ。

「ふん……ウォルフレッドの飼い犬が」

 テレンスが小さく悪態をつく。

「別にいいじゃないか。これまでどんな女が来ても見向きもしなかったくせに、いきなりどうしたんだ? もしかして、その女、お前のお気に入りだったとか?」

「そんなわけ、ありません!」

 思わずフィラーナは声を荒らげたが、ウォルフレッドは何も答えず、テレンスを睨んだままだ。

(ちょっと、なんで否定しないの!?)

 ウォルフレッドの態度に動揺と困惑を隠しきれないフィラーナは、自分を捕らえている腕の中から脱出しようともがいたが、彼の身体はびくりとも動かない。
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