冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 いきなり抱き寄せられるというウォルフレッドの謎の行動に、フィラーナの戸惑いはすぐには消せるものではない。だが、彼に助けられたのは事実なので、ひとまずここは素直に礼を述べるべきなのだろう。

「殿下、その、ありがとうございました」

「礼ならセオドールに言うんだな」

 話によれば、まずセオドールが近くにいた近衛騎士に事態を知らせ、それが側近であるレドリーに伝えられ、直ちにウォルフレッドの耳に入ったらしい。

 フィラーナに改めて礼を言われたセオドールは、なぜかバツが悪そうに目を伏せた。

「すみません、僕に力が無いばかりに、あなたに嫌な思いをさせてしまいました。結局、ウォルに……王太子殿下に頼ることしかできなくて」

「いいえ、セオドール殿下が知らせてくださらなかったら、今頃どうなっていたか分かりません。ありがとうございます」

 フィラーナがにっこり微笑むと、セオドールは顔を上げ、照れ臭そうに笑った。ほんわかとした空気が漂う中、そばまでやって来たウォルフレッドがセオドールの肩に手を置く。

「セオドール、お前はもう戻れ。あとは俺に任せろ」

 安堵の表情を浮かべて頷くセオドールを見たウォルフレッドは、近く控えていたふたりの騎士にも護衛の指示を出した。彼らは丁寧に一礼し、それに応えるようにフィラーナも深く頭を下げる。ゆっくりと顔を上げた時には、すでに三人はその先にある廊下の角を曲がっており、姿は見えなくなった。

 再び、本来の静寂が辺りを包む。かすかに響くのは、森の中から聞こえてくる鳥のさえずりくらいだ。

 思わぬ形で、またもやウォルフレッドとふたりきり。しかも先ほど一悶着あっただけに、非常に気まずい雰囲気だ。
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