冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 ともかく、フィラーナは一刻も早く、この場を立ち去りたかった。

「では、私はこれでーー」
「来い」

 しかし、フィラーナの発言はまたしてもウォルフレッドに遮られてしまう。

「え……?」

「離宮まで送ってやるから付いて来い。早くしろ」

 ウォルフレッドはさっさと森の方へ向かおうとしている。断れないような空気を感じ、フィラーナは思わず「は、はい」と返事をしてから、港町でのことを思い出した。

(そういえば、おじいさんの荷物を運ぶと言われた時も、こんな感じでちょっと強引だったわよね……)

 それに、さりげない優しさに触れ、『いい人』だと感じたことも。

「あの、殿下……」

 背中を追いかけながら、控えめにフィラーナは声をかけた。

「何だ」

「やっぱりひとりで戻ります。殿下の足元が汚れてしまいますから」

「俺がここを通りたいだけだ。お前を連れて城の中に入ったら、俺がお前を特別扱いしていると、周囲から勘違いされてしまうのも面倒だからな」

 相変わらずな言い分だが、フィラーナを送り届けることを前提としているようだ。

(言葉は冷たいけど、意外と他人を放っておけない性格なのかしら……)

 港町の時から感じていたが、ウォルフレッドの冷淡な口調と実際の中身には、多少開きがあるのかもしれない。そう思うと何だか少しだけ親しみが戻ってきて、フィラーナはつい口元を綻ばせた。

「テレンスには気をつけろ。あいつは昔から女に見境がない。しかし、テレンスをあしらうのに、大分てこずっていたようだな。港町で男に絡まれていた時のような勢いはどうした」

「あの時とは違います。相手は王族の方ですよ? いくら私が向こう見ずな女だからって、そんなこと出来るわけ……」
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