冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 ウォルフレッドは低い声で言い放つと、突然フィラーナの両手首を掴んだ。フィラーナが驚きの声を上げる間もなく、それらを頭の上でひとまとめにして壁に押しつける。

「ちょ、ちょっと何を……!」

 いきなり腕を持ち上げられて無抵抗な状態にさせられ、フィラーナは狼狽しながらも振りほどこうと激しくもがく。しかし男の力は思いの外強く、余計に手首が痛くなるだけだった。キッと睨み付けると、ウォルフレッドはゆっくりと口角を上げる。

「もう終わりか。さっきの強気な発言はどこにいった」

「いい加減にしないと、蹴り飛ばしますから!」

 つい最近まで“不敬罪”を気にしていたことなどすっかり忘れて、本気の怒りがフィラーナの口から飛び出した。

「敵にそんなことを尋ねる余裕があると思うのか。そんなことをしているうちに、お前はとっくに命を奪われているぞ。どうだ、俺の言ったことは正しいだろう」

 所詮は女だ、その非力さを認めろ。そうとも取れるウォルフレッドの発言に、フィラーナは悔しさを抑えることができないまま、もがき続ける。蹴ろうにも互いの身体が近すぎて、膝を上げるのがやっとだ。しかし、それも大した威力にはならない。

「俺の決定に従え」

「嫌よ!」

 悔しさのあまり、フィラーナは発端である話が何であったのかちゃんと確認しないまま売り言葉に買い言葉で即座に抵抗する。女だから、という部分に固執しすぎて話の本筋が見えなくなっていた。

 そんなフィラーナの態度に、ウォルフレッドは深くため息をついた。
< 78 / 211 >

この作品をシェア

pagetop