冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない

(くそっ……何だってあんなことを……!)

 急ぎ執務室に戻ったウォルフレッドは、溜めていた感情をぶつけるように右の拳を思い切り壁に叩きつけた。

(俺はもっと冷静な男だと、そう思っていたが……)

“氷の王太子”といつ誰が言い始めたのかは定かではないが、自分の本質をよく捉えた表現だとウォルフレッド自身も認めていた。この先の未来のためにも、そうでなくてはいけない。それなのに、フィラーナを前にするとなぜか調子が狂い、自分が自分でなくなってしまう。

 フィラーナが護衛が嫌だと主張するなら、そこで話を終わりにすればいいだけのことだった。提案はしたが断りを入れたのはお前自身だ、この先何があっても知らないぞ、と冷たく突き放せば良かったのだ。だが、そうすることが出来ないまま口論になり、話の主軸がずれていき……しまいにはこの体たらくである。

 そもそも『あなたに守ってもらいたいなんて思ってない』と言われて、なぜカッとなってしまったのだろう。護衛の件で感謝されることを心のどこかで期待していたからなのか。

(それともフィラーナに、“男”として頼りにされたかったのか、俺は……?)

 しかし、拒絶されたことに腹を立て、この生意気な口をどうにかしてやりたいという衝動を抑えることができなかった。これでは自分の気持ちが伝わらなかったからと癇癪を起こす幼子と同じではないか。それに、いくら何でも彼女の口を唇で塞ぐなど自分でも信じられず、あり得ない。

(俺は無意識のうちにあの女を……欲しているのか?)

 次々と浮かび上がる疑問に頭の中が埋め尽くされそうで、ウォルフレッドは壁に軽く頭突きをするようにもたれかかると、深くため息をついた。
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