冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない

 開け放たれた窓から入り込んだ春風が、部屋中至るところに飾ってある花を優しくかすめる。

 フィラーナはソファの端で膝を抱えて座っていた。膝と身体の間に挟んだ大きめのクッションに何度も顔を埋める。ひとりにしてほしいとメリッサに頼んだので、ここには自分以外誰もいない。

(どうして殿下はあんなことを……?)

 唇に残る柔らかい感触。

 つややかな白銀の髪と凍った湖のような水色の瞳から冷涼感を漂わせている反面、重ねられた唇の熱さに驚いて、抗えなくてーー

 思い出して、再びフィラーナの顔から湯気が出そうになる。

 今更だが、平手打ちくらいお見舞いしてやれば良かったと思う。いくら命令に背こうとするこの口が憎いからと言って、急に口づけしてくるなんて明らかに無礼なのは向こうだ。

 キスとは、恋人もしくは夫婦など心の通った者同士が交わす愛情表現のはずだ。しかし、ウォルフレッドは妃を迎えないと公言している。では彼のこの行為には何の意味があるのか。

(はっ……まさか、妃はいらないけど愛人は欲しい、とか……?)

 冗談じゃない、とフィラーナは首を左右に振るとクッションを横に放り投げた。初めての経験でこんな気持ちにさせられるなんて思ってもいなかった。

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