冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
「え……あ、はい、お通しして」

 急な訪問に戸惑いつつもフィラーナがソファから立ち上がると、ちょうど入室してきたレドリーが彼女に向かって丁寧に腰を折った。

「今朝の出来事、大変申し訳ございませんでした。ただ今総力を上げて調査中ですので。その他に不備があれば何なりとおっしゃってください」

「あの、どうか頭を上げてくださいませ。おかげさまで不自由なく過ごさせていただいております。どうぞお座りになってください」

 フィラーナにすすめられるままレドリーは向かいのソファに腰を下ろす。メリッサは再び廊下に戻ってしまったようで姿は見えない。

「私が人払いをお願いしました。フィラーナ様に折り入ってお話したいことがありますゆえ」

「は、はい、何でしょう?」

 改めて切り出され、緊張でフィラーナの背筋が伸びる。

「実は……殿下はあなたを帰郷させたいとお考えのようです。まだ決定事項ではありませんが」

「え……?」

 レドリーの言葉に、目の前の視界が揺れるのをフィラーナは感じた。

「……それは……私が殿下の逆鱗に触れてしまったからでしょうか? 護衛の件に反発してしまいましたから……」

「いえ、それは違います。むしろ不埒な振る舞いをして非難されるべきなのは殿下の方なので」

 不埒な振る舞い、と聞いて先ほどの記憶が鮮明によみがえり、フィラーナは顔を赤くした。レドリーに知られていることへの羞恥と、側近とはいえ何でそんなことを話してしまったのかというウォルフレッドへの恨めしさで感情の波はぐるぐると渦を巻き、自分でもどうしていいかわからいほど混沌としている。
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