冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 言い終えると同時にレドリーは頭を垂れた。慌てたフィラーナがいくら顔を上げるように言っても、レドリーは体勢を戻そうとしない。フィラーナは当惑するしかなかったが、十以上も年下の自分に向けられた彼の真摯な姿勢に、臣下の域を越えたふたりの繋がりを感じた。

「……レドリー様が殿下を大切に思っていらっしゃる気持ちは伝わりました。ですが、このままでは私はお断りするほかありません」

 沈黙を破り発せられたフィラーナの声の中に失望の音を感じ取ったレドリーが、ハッと顔を上げる。

 真っすぐに向けられたフィラーナの緑の瞳には影が差し、表情は凍ってしまいそうなほど固い。

「私は殿下の愛妾になることはできません。殿下はお妃は要らないとおっしゃっているのに、レドリー様は私に妾の道を要求なさるのですか?」
 
「妾……? とんでもない、それは違います!」

 目を見開いたレドリーは焦ったように首を横に振る。

「誤解を招く言い方になってしまったのでしたら心からお詫びいたします。しかし、私はフィラーナ様を軽んじて申し上げたのではありません。あなたこそ殿下にふさわしいお方だと思ったからです」

「ならばお聞かせ願いますか? ……殿下はいずれこの国の王となられます。その血統を後世に残すことも王としての大切な使命のひとつのはずです。ですが、殿下はお妃はいらないとおっしゃっています。それはなぜなのですか?」

 フィラーナは思ったことを素直に一気に述べると相手の出方を待った。

 ここ数日でフィラーナの心境にも変化があり、ウォルフレッドに対する印象も随分好意的にはなったものの、よくわからない理由で振り回されても構わないと思えるほどにまでは至っていない。ウォルフレッドの気質上、本人から簡単に聞き出せそうもないことはわかっているので、第一の側近なら何か知っているかもしれないと踏んだのだ。
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