冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
「えっ……王女様……?」

 フィラーナは驚いて目を見張った。側妃ということで自分のような一介の貴族出身者を思い描いていたが、まさか一国の姫君だったとは。

「イルザート王国は、農作地帯が国土の大半を占める穏やかな風土の小国で、長年我が国とは友好関係にありました。しかし、三十年ほど前に王の急逝により代替わりがあり、新たに王位を継承した若い王子は好戦的な性格で、隣接する国々との衝突が絶えませんでした。ついにその数年後、和平条約を一方的に破棄すると国境を越えて我が国へと進軍してきたのです」

 北の荒野で両軍は激突したが、圧倒的な軍事力の差からイルザート軍はすぐに敗走し、その際に若き新王はあっけなく討ち死にし、多くの兵士も犠牲となった。王の戦死を早馬で知らされたその家族や側近たちは捕虜になることを恐れ、すでに王城内で自害していた。

 これによりイルザート王家の血は絶たれたと思われていたが、その中にひとりだけまだ息のある若い娘がいた。それは戦死した王の異母妹で、スフォルツァ陣営の軍医による懸命な治療が施された。その甲斐あって、王女は一命を取りとめることが出来たが、意識が戻らないまま王都レアンヴールへ運ばれた。

「数日後に目覚めた時、王女様は混乱し気が動転して手のつけられない状態だったといいます。それもそのはずです、眠っている間に敵国の王城に連れてこられ、自分だけが生き残ってしまったことを知らされたのですから」

国が滅び帰る場所のない王女は次第におとなしくなったが、脱け殻のように生きる気力を失くしてしまった。

「捕虜になったと思い込んで、自分自身の存在を呪ってしまっていたのでしょう。陛下はそんな彼女を気にかけ、何度も足を運ばれたそうです」
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