冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 そんな日々が一年ほど続き、王女のここでの暮らしを確立するために、王は彼女を妻として迎えることを決めたのだった。ただし、すでに正妻である王妃がいたため、一国の王女としては相応しくない側妃の地位しか残されていなかったのである。

「亡国の王女であるため彼女には頼りとなる後ろ盾がありませんでした。そこで王命により、長きに渡り王家と親交のあるバルフォア公爵家の当時の主ーー私の祖父の養女となったのです」

「そうだったんですか……そんなことが……」

 フィラーナは『戦利品』と言ったテレンスの言葉の意味をやっと理解した。敗戦国の王女や姫が相手国に連行され、見初められて王族や貴族と婚姻する、もしくはそれを強要されるという話は聞いたことがあるが、どこか遠い国の出来事のようで、今まで現実味が沸いたことはなかった。

「王女様は、お幸せだったのでしょうか……?」

「おふたりの間に明確な愛が育まれていたのかどうかは、我々には計り知ることはできません。ですが、御子を身ごもったことで王女様は穏やかな日々を送られていたと聞いております。きっと運命を受け入れ、新たな命と共に生きる希望を見出だされていたのでしょう。しかし……」

 レドリーの表情が少し曇る。

「取り巻く環境が目まぐるしく変化し、心身共にお疲れだったのかもしれません。出産直後体調を崩された王女様は回復することのないまま、半年後お亡くなりになりました。ですので、殿下はお母上の温もりを覚えていらっしゃらないのです」

 物悲しげな空気が部屋全体を包み、フィラーナは胸の奥がぎゅっと締めつけられる苦しさに見舞われた。
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