【2025.番外編&全編再掲載】甘い罠に溺れたら
「羽田沙耶さんだったかしら?」
お母様は静かに私の方に向きを変えると、私を見た。
その瞳からは何も悟ることができず、私は頭を下げることしかできなくて、その場にたちつくす。
「羽田沙耶と申します」
少しして何とか、自分の名前だけを言うと、大きく息を吐いた。
「いきなりお呼びだてして申し訳なかったですね。驚いたわよね」
「いえ……」
もちろん驚いたし、今の状況すら飲み込めていなかったが、あからさまな嫌悪を向けられているわけでもない事が解り、私はお母様の次の言葉を待った。
「どうぞ。お掛けになって」
いかにも高級そうなソファに対面で座ると、すぐにきっと高級だろうカップに入った紅茶が運ばれてきた。
いかにもなその世界に、私はいたたまれない気持ちと、優悟君と一緒にいると約束したことを思い出し、必死に仕事で身に着けた冷静さを思い出す。
お茶を出し終え、さっき案内してくれた、女性が出て行くとお母様は私をみた。