【2025.番外編&全編再掲載】甘い罠に溺れたら

「だから、それも誤解だったの。いろいろな事があって」
何から説明すればわからず、私は俯いた。

「いろいろってどういうこと?」

「だから、彼が佐伯グループの息子で、その関係でいろいろあって……」
お嬢様に写真をねつ造され、だまされ、挙句の果てにはお金目当てだと思われたなど言えるわけもなく言葉を濁した。


「佐伯グループだと?ダメだ!ダメだダメだ!認めん!」
初めて聞くお父さんの怒った言葉に、私はビクッと肩を震わせた。

「お前がそんなところの嫁が務まるわけないだろ。苦労するのが目に見えてる!」
そう言うと、お父さんは立ち上がり部屋を出て行ってしまった。

呆然とその様子を見ていた私に、お母さんが口を開いた。

「ねえ、沙耶。あの時の自分を忘れたの?」
あの時……。
忘れていない。辛くて、辛くて。

「ごめんなさい」
自分の事でいっぱいいっぱいだったが、きっと私と同じぐらい二人にも辛く、心配をかけていたことに、今気づいて私は小さく謝った。

「いきなり帰ってきて、そんなお金持ちの息子さんだったあの時の人と付き合っているっていわれても、お父さんもお母さんもよかったわねなんていえない」
きっぱりと言い切られたお母さんの言葉に、私は何もいえず口をつぐんだ。
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