【2025.番外編&全編再掲載】甘い罠に溺れたら
「入りなさい」
静かに父はそう言うと、箸をすっとおいた。
「ありがとうございます。失礼します」
こんな場面でも動じない優悟君はやはり大企業の人間だと思う。
「あーおばさん。俺なんか場違いだから行くよ。沙耶、よくわからないけど頑張れよ。あと、おばさん、俺にも嫁候補いるから沙耶はもらえないんだわ。ごめんね」
大ちゃんはにやりと笑うと、「まいどありー」と走って行った。
どこまでもマイペースな大ちゃんに感謝しつつ、私は今の状況に心臓がバクバク煩い。
玄関から改めて家へと入ってきた優悟君は、お父さんたちの前に正座すると真っすぐに二人を見た。
「いきなりのご挨拶で失礼します。一緒に来たかったのですがしばらく出張にでておりまして」
そうだよ。明日帰国予定の優悟君がどうしてここにいるのか分からず、私は言葉を発した。
「どうして?仕事は?」
「早く終わらせた。昨日メールしたときはもう空港だった」
それだけを私に説明すると、もう一度優悟君は両親に目を向けた。