【2025.番外編&全編再掲載】甘い罠に溺れたら

「遅いから心配した」
少し息が切れているその声に、慌てて私をこうして抱きしめてくれていることが分かる。

何も言えない私に構うことなく、優悟くんはアランさんをにらみつける。
「アラン、いい加減にしろ」
静かに言葉を発した優悟くんの声に、今まで余裕そうだったアランさんの顔が歪む。
初めて見せるその表情に、私も驚いてしまう。
「なんのことだよ」
私たちから視線を外すと、髪をかき上げ、アランさんは立ち上がった。

「沙耶、俺は諦めないよ」
私にそう言葉を向けたとき、後ろから「アラン!」と呼ぶ声が聞こえた。
「沙耶にまたちょっかいかけていたの?」
静かに響いたそのマリカさんの声に、アランさんはビクリと肩を揺らした。

「ああ、そうだよ。お前が優悟と一緒になるためには必要なことだろ?」
最後は自嘲気味な表情を浮かべたと思えば、諦めないと言ったように、アランさんは私の手を引こうとした。

「そんなことをして、人の気持ちなんて変わるわけないでしょ!」
今までとは違う怒りをあらわにしたマリカさんに、私たちもびっくりしてしまう。

「アラン、アメリカでは見守ってきたけど、沙耶を巻き込むなら別だ。すべてここでぶちまけるぞ」
優悟くんの脅すような言葉の意味が分からず、私は三人の表情を見比べた。
優悟くんの言葉に、アランさんが唇をこれでもかというほど噛みしめて俯く。

「行けよ」
意味が分からない私とマリカさんの方を向くことなく、アランさんはそれだけを口にした。
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