【2025.番外編&全編再掲載】甘い罠に溺れたら
友里とお昼を食べていても、さっきの「あの」声が耳から離れず、私は小さくため息をついて箸を置いた。

そんな私を見る友里の怪訝な視線とぶつかる。

私は観念したように、言葉を選んだ。

「さっき、あの人の声が聞こえた気がしたの」

私の言葉に、友里は目を見開き、何かを言いかけたが口を閉ざした。

「きっと気のせいだと思うけど、なんか食欲がなくなっちゃった」

笑顔を作ったつもりだったが、友里にどう映ったかはわからない。

「あの人……ね。そんなふうにした張本人?」

友里も、持っていた箸を持て余すように指で撫でていた。

「そう。大したことはされてないんだけどね。ただ遊ばれただけ」

自嘲気味に言った私の言葉に、友里は少し怒ったように、

「十分よ! 浮気して、あっけなく他の女のところに行った、そんな男!」

そう言い捨て、白米を口に頬張ると、なぜか泣きそうな表情をした。

その顔を見て、私も無理に少し微笑んでみせた。
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