【2025.番外編&全編再掲載】甘い罠に溺れたら
「羽田さん?立てる?」
戻ってきた水田先輩はそっと私の手を引いて、私の顔を覗き込んだ。

泣きそうな顔をしていたのかもしれない。
整った顔が少し困ったような表情に見え、私はなんとか取り繕うために言葉を探した。

「すみません……ちょっと疲れてたから……」

「送っていくよ」
その言葉に一人で帰れる気もしないし、一人にもなりたくなくて足を踏み出すとバランスを崩して水田先輩の胸に倒れ込む形になった。

「大丈夫?」
なぜかそのまま抱きしめられ、私は慌ててその胸を押す。
でも男の人の力に、抵抗むなしく身動きが取れずそのまま私は固まってしまった。

佐伯部長とは何もかも違う体、香り、初めて部長以外の男の人と近づいた私の心は、「違う!」と叫んだ。

そんな私を感じ取ったのかもしれない。
そっと私を離すと、水田先輩は小さくため息をついた。
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