【2025.番外編&全編再掲載】甘い罠に溺れたら
「羽田さんの中には部長がいる?」
ストレートに言われ私は驚いて顔を上げた。
真っすぐに見つめられたその視線は、ふざけている様子もないようにみえた。
「なんでそうなるんですか?どうして部長?」
なんとかそう返事をすると、水田先輩は意外な言葉を投げかけた。
「ねえ、憎しみとか悲しみとかそう言う感情ですら、強く惹かれ合う理由になるのかもね」
「え?」
酔った頭ではどういう意味か全く分からなかったが、水田先輩は真面目だった表情が緩み、私の頬にそっと手を当てた。
「今はそうでも羽田さんのその止まっている時間を俺が進めたい。それを覚えておいて。俺はずっと羽田さんを見てきたから。だから早く羽田さんの中でケジメがつくといいな」
先輩……。
私の中のケジメ?
私の?
突然の真面目な告白に一気に酔いが冷めた気がして、先輩の言葉がグルグルと頭を廻る。
「大丈夫、これ以上近づかない。先輩としてきちんと送り届けるよ」
そう言って私と一緒にタクシーに乗り込むと、先輩はただ微笑んでいた。