【2025.番外編&全編再掲載】甘い罠に溺れたら
水田先輩にお礼を言って、家の前でタクシーを降りると、私は6階にある自分のマンションのドアをあけた。

グルグルと今日一日を思い出しては消えて行く。
ぼんやりとソファに座ると、なぜか涙が溢れてとまらなくなった。

何の涙よ……。

自分にツッコミを入れつつ、私は涙を拭って小さくため息をついた。

時間が止まっていたのは私だけで、部長はすっかり私のことなど忘れて大切な人を見つけていた。その事実にむなしくなる。


あの時から大人になって、自分の事を守ることを覚えたつもりだったか、ただ逃げていただけかもしれない。

傷つくのが怖いから。

男の人を避けて、部長とのあの出来事を正当化して、私は傷ついたんだから仕方ない。
そんな風に思っていた。
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