【2025.番外編&全編再掲載】甘い罠に溺れたら

「ここって……」
そこまで呟いて、私は言葉を止めた。

そこに着くまでも、見たことのある景色だなとは思っていた。

「ああ、懐かしいだろ?というか来たことあった?」
部長の言葉に、私は小さく首を振った。
車を停めた前には、私たちの母校の大学があった。

そしてあの時の辛い思い出がよみがえるこの街に、卒業以来私は、一度も足を踏み入れていなかった。

「俺も来てなかったから、懐かしい」
本当に懐かしそうに周りの景色をみる部長に、昔の幸せだったころと錯覚してしまう。

「じゃあ、あそこ?」
私はついそのままの気持ちで声をだしていた。

「あっ、すみません」
慌てて謝った私に、部長は少し表情を曇らすと、私をみた。

「別に敬語じゃなくていいんだけど」

「でも私は部下なわけですし……」
言葉の最後を濁らした私に、部長はまた笑顔を見せると、

「まあ、これからだからな。というかそう、あそこに行こうと思って」

え?どういう意味だろう?そう思った時には車が発進していた。
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