主任、それは ハンソク です!
一応、県庁所在地ではあるけど、なんせ田舎なものだから主な移動手段は自家用車。街中に電車はもとより路面電車すらなくって、唯一、一時間に数本の市バスが走り回っているだけ。電車といえば、イコール旅行というくらい、私たちにとってそれは縁遠いものだ。
「まぁ、車内刷りっていっても首都圏の電車程度だから、全国規模とかそんなんじゃないし」
首都圏の一言で、一瞬、気が遠くなった。
「お、おい。大丈夫か? 顔色無いぞ」
はい、と弱々しい返事を返しつつ、私はますます困惑する。
私の周囲が怒涛の勢いで動き出してしまっている。
家の中では昨日から、見たことない着物が茶の間から続く和室の鴨居にかけられている。お見合いのために用意されたらしいそれは、すごく派手な代物でしかも古そうな感じ。
たぶん、父方の叔母たちの誰かが、若い頃に着ていたものだろう。茶の間にまで樟脳の臭いが漂ってきて、ものすごく気分が悪い。
対して会社ではデザインコンペ。素人の私がプロの人相手に太刀打ちできるわけがない。
本当に、私はどうすればいいんだろう。