主任、それは ハンソク です!

 思わず言いよどむ私の様子に、全てを察したのか、しょうがないなと彼が独りごちた。

「先週、見ただろ? あの地下鉄のマルチ広告。あれが全てで、その答えだよ」

                *   *   *

 先週、私たちはそれぞれの有給消化も兼ねて東京に行ってきた。

 ほんの三日間だったけれど、周囲からは『婚前旅行』とやっかみ半分で揶揄された。でも実際は、旅行なんて優雅なものではなくて、私の(形だけではあるけど)会社の面接だったり、東吾さんが着任する新しい部署への下見と引き継ぎ。

 そして、件のコンペで受賞した、私のデザイン広告を配した電車を見に行くための正に強行軍だ。

「……どうだった、自分のものがああやって電車一面にぶら下がってるのって」

 さらっと聞かれて、言葉に詰まる。私自身、まだあの光景が信じられなくて、うまく咀嚼できてないのだから。

 コンペなんて参加できただけでも充分なのに、なんと入賞、しかも優勝作品とはまた違う展開で広告採用された。

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