死にたがりな彼女




メルヴィー街に着く頃にはソウェルは目を覚ましていて、煌びやかな街灯を車窓から面白くもなさそうに眺めていた。


此処の夜は長い。


何処までも楽器が鳴り響き、見世物小屋が至る場所に散らばっていて、客の目を留めようと、客から金をせびろうと、必死だ。


時刻は午後八時。


電車が駅へと着いて、僕たちは電車を降りると賑やかな街を歩き始めた。


人が多いので、ソウェルを抱き上げて。


外套(マント)から顔だけを出して、ソウェルは見慣れない街の異文化に、目を見張っていた。



「何か見たいものはある?」



「あの大きな人だかりはなぁに?」



ソウェルが指を指す方には沢山の人が、ある一箇所を中心に距離をとりつつ、円になっている広場。


なんとも奇妙な光景だが、これはこの街では良く見かける光景だ。



「見世物小屋でもしているのかな」



「他の所より人が沢山居るわ、行ってみましょう」



興味が出たのかソウェルが言うので、僕は濁流のように流れ込んでくる人をスルスルと避けながら、その円の一部になった。


はっきり言おう。


ソウェルの頼みでなければ僕はこんな人だかりの中に居たくなんてないし、人だかりを掻き分けて、その人だかりの一部になることも嫌いだ。


ショーは今始まったばかりのようで、メガホンを持ったよく太った男が恭しく頭を下げて声を響かせた。


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