エリート弁護士と婚前同居いたします
「……愛してる。これからもずっとよろしく」
誓いのキスは涙の味がした。

「これからのことを話しながら帰ろうか?」
私の頭をいつものようにポンと撫でて、屈んで私の顔を覗きこみながら彼が言う。
「う、うん」
涙がまだ引っ込まない私に彼が苦笑する。

「好きな子を泣かせた悪い男みたい、俺」
「そ、そんなこと言ったって……!」
涙目のまま、真っ赤になって言う私。
確かにここは駅前だしすごく目立つ。
「明日からこの駅、使いにくい……」
思わず下を向く私に彼は平然と言う。
「そう?」
「もう、他人事だと思って!」

違う意味で泣きそうになる私を、彼は出会った頃より随分優しくなった綺麗な目で私を見つめる。
「でも俺は、茜に初めて会ったこの場所でプロポーズしたかったんだ。あの日から俺の運命は変わったから」
輝く笑顔で彼は私を甘やかす。それが嬉しくて、くすぐったい。
きっとこれから先もこうやって、私は彼に翻弄されるのだろう。だけどそれが嫌じゃない。胸に彼への溢れそうな想いが込み上げる。

「朔くん、大好き」
背伸びをして彼の左耳にそっと囁く。彼の耳がほんのり赤く染まる。そんな些細なことさえ愛しい。
きっと私がまだまだ知らない彼がいる。今はそうやって、ひとつひとつ彼を知っていけることが嬉しい。
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