エリート弁護士と婚前同居いたします
「今日の予定を尋ねるために昨夜、お母さんに電話したんだけど、お父さんが神戸に転勤になったらしいの。それでお母さんもお父さんが心配だからって異動を願い出たらしくて……」

 そんな突然!!
 衝撃の事実に瞠目する。
 じゃあ実家に戻っても結局ひとりになるってこと? 無理、無理!!

「わ、私どのみちひとりで暮らすしかないってこと……?」
 恐る恐る姉に尋ねると、困ったように姉が頷いて言う。
「詩織ちゃんと一緒に暮らすとかは……?」
「無理。詩織、彼氏と同棲してる」

 高校時代からの親友、安藤(あんどう) 詩織はアパレルメーカーに就職している。東京駅前にある百貨店に入っているテナントで勤務している。ちなみに大学時代からつきあっている彼氏の晃くんと同棲している。
 新たなルームメイトを探す? それとももっと割安な物件に引っ越す? 何にせよ、時間もないし貯金すら乏しい私にそんなことが可能なの?
 ご機嫌な休日が一気にグレーになる。

「そうよね、どうしよう……」
 姉の表情が曇る。
 まずい! このままでは責任感の強い姉のことだ。私の引越し先なり、落ち着き先が決まるまでお兄ちゃんと結婚しないとか言い出しかねない。

「お、お姉ちゃん! 時間、いいの? お兄ちゃんと約束があるんじゃないの?」
 話題を逸らすために壁にかかっている時計を見ながら言う私。

「あ、本当! もうこんな時間」
 私につられて時計を見た姉がはじかれたように立ち上がる。
「カップは片付けておくから、ほら急いで!」
 姉を追い立てるように言って、私は無理やり笑顔をつくる。

「ごめんね、茜。帰ってきたらまた相談しましょう」
 そう言って姉はばたばたと外出準備をする。手を振って姉の後姿を見送った私はバタンと閉まった無機質な玄関ドアを見つめてその場にずるずると蹲った。
 ああ、もう、本当にどうしよう……。
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