エリート弁護士と婚前同居いたします
「ええ、大変じゃないですか! 茜さん!」

 翌日の昼休み。
 職場近くにあるカフェで同じ受付業務の後輩、深見瑠衣(ふかみ るい)ちゃんがくるくるとトマトパスタをフォークに巻きつけながら言う。

顔の両サイドが少し長めの緩やかなパーマのかかったショートヘアに小鹿のように大きな目が印象的な可愛い女の子だ。瑠衣ちゃんは二十五歳で入社三年目。現在入社五年目の私が指導係になったことがきっかけで仲良くなった。
『茜さんって仕事はしっかりこなしますけど、私生活は手を抜きすぎです!』
 そう言って私に最近の流行と女子力を教えてくれる頼もしい後輩だ。

「そう、大変なんだよ……」
 注文したホウレン草のクリームパスタを口に運びつつ、私はうなだれる。
「私と一緒に暮らします?」
 大きな目で私をじっと見つめて心配そうに瑠衣ちゃんが言う。

 彼女は実家暮らしだ。勤務先から電車で四十分くらいの場所に両親と暮らしている。
「三年前に兄が結婚して家を出たので部屋は余っていますし」
「有難いけど、それはそれで申し訳ない気がする……」
 はあ、と昨日から何度目かわからない溜め息をつく。

「私は構いませんけど……でも時間がありませんよね。ルームシェアする相手を探すにも誰でもいいってわけにはいきませんし。引越しするにも引越し先を見つけなくちゃいけないし、引越しの荷造りとかも必要ですしね」
 冷静に問題点を列挙してくれる後輩。全てが一カ月やそこらで解決できそうにない。

「そもそも茜さん、家事苦手でしたよね?」
「苦手っていうか時間がすごくかかるの。姉に甘え過ぎてたよ……」
 そう言ってアイスコーヒーをくるりとストローでかき混ぜる。カランと透明な氷が涼やかな音を立てる。
< 6 / 155 >

この作品をシェア

pagetop