エリート弁護士と婚前同居いたします
「まあ、お前に彼氏や好きな男がいたとしても、俺は諦める気は一切ないけどな」

 どこまでも傲慢な彼。どうしてこんなにも私を一途に想ってくれるのか、やっぱりわからない。
「そんなこと、言われたって」
 車の中はエアコンがきいていて、丁度いい温度なのに喉がカラカラに乾く。
「お前の気持ちが俺に追い付くのを待つつもりだし、俺を知ってから返事をしてほしいって言ったことも嘘じゃない。だけど、俺はお前に対して特別な扱いをやめないし、もう我慢しない」
 チョコレート色の綺麗な瞳が真っ直ぐに私を射抜く。彼の低い声が私の耳朶をくすぐる。

「だからお前は同棲だと認識しろ」

 甘い命令を発して、彼は再び前を向く。信号が青に変わり車がスムーズに走り出す。
顔の火照りを誤魔化すように私は車窓を見つめる。心臓が壊れそうだ。ガラス窓に映るのは平凡な二十七歳の女。こんな汗まみれで化粧も最低限で、髪だってひとまとめに括っただけ。どこにも魅力的な要素はない。ガラス越しに運転している彼の横顔を見つめる。

 綺麗で長い指がハンドルを握っている。私と同じように作業をしてくれていたはずなのに埃っぽさを感じることもない秀麗な顔立ちにサラサラの焦げ茶色の髪。弁護士という職業をこなす優秀な頭脳。やっぱりわからない。

 こんな調子で私はこの人と一緒に生活をしていけるのだろうか。すでに自信がもてない。
< 55 / 155 >

この作品をシェア

pagetop