エリート弁護士と婚前同居いたします
元々そんなに荷物がなかった私の搬入作業は思ったよりも捗っていた。洗濯機など生活に必要な家電は彼の自宅にあるものを使わせてもらうことにしたため、姉に処分を任せた。

 私は新たに自室となった部屋に一礼をして、片付けを開始していた。
 段ボールの処分や男性の力を借りたい時は手を貸してもらったけれど、それ以外の手伝いは丁重に断った。特に見られて困るようなものはないけれど、さすがに下着や過去の日記を片付けている姿は見せたくない。

 私に締め出された上尾さんはなぜか拗ねたような表情をしていたけれど、渋々了承してくれた。
「夕食の準備でもしておく」
そう言って彼はリビングの隣にあるキッチンに移動していた。

 しばらく作業に没頭して、ふと目を向けた窓の外には夕焼けに染まる空が見えた。随分と時間が経過していたことに気づく。
 今日から私はここで暮らすんだ。今頃になってその実感が少し湧いてきた。
 家事とかきちんとできるかな、私。

 引越しが決まってから最低限と言うか、必要な家事については今さらながら姉に教えを請うた。掃除と洗濯はなんとかこなせるようになった。おしゃれ着洗い等の選択表示はまだ苦手だし掃除機もかけるときによく家具にぶつけてしまいそうになるけれど。彼の部屋の家具の値段を考えるだけで恐ろしい。

 手こずったのは料理だった。きちんとレシピを読んで型どおりに作るだけで時間がかなりかかってしまう。そもそも包丁の使い方が私は下手なのだ。今まで姉にどれだけ甘えてきたのかを情けないほどに痛感する修行の日々だった。

『上尾くんは家事ができるんでしょ? ゆっくり教えてもらいなさいよ』
 姉はなんでもないことのようにそう言っていたけれど、それはどうなのかと思う。彼は容姿も中身も完璧なうえ、家事スキルまで高い。もう私の出る幕がない。むしろ私の必要性を感じない。この同棲らしきものが彼にはなんのメリットがあるのだろう。
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