エリート弁護士と婚前同居いたします
「まあ、茜さんの恋愛観って重いですから」
 キッパリと後輩がオレンジジュースを飲みながら、容赦なく言う。
「……そんなことないよ。だって好きな人には素直に好きって言いたいし、できるだけ一緒にいたいでしょ」
 返答する私の声は弱々しい。
「この年齢になって真顔でそういうことを言う人は、茜さん以外に私の周囲ではいませんけどね」
 これまた容赦がない。

 私が彼と別れた最大の原因は遠距離恋愛になったから。就職してすぐ彼が札幌に転勤になった。それは社会人であれば仕方のないことだった。だからといって強引に結婚を迫ったわけではない。離れていても一緒にこれから先も過ごせるように、考えてほしかった。
会えなくても不安にならないように、分かり合えるように、約束事を決めたり、話し合いたかった。未来を共に生きていくために向き合ってほしかった。

最初のうちは彼もそれを受け入れて努力してくれていた。ただ、それが半年、一年となると彼は段々疎遠になった。忙しいせいもあったかもしれないけれど、面倒くさくなってきたのか積極的に私と連絡を取ろうとしなくなった。札幌に会いに行っても、彼の嬉しくなさそうな表情、事務的な会話、心ここにあらずの態度に小さな喧嘩が増えていった。

 そんなことが何回か続き、私たちはどちらともなくお互いに距離を置くようになり、別れた。彼のことは好きだった。恋をしていたはずだった。だからこそ、一緒にいたかったのにそれは間違いだったのだろうか。私の態度が悪かったのだろうか。彼は私との未来を考えていなかったのだろうか。
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