皇帝陛下の花嫁公募

 ナディアは部屋にあった燭台に火をともす。テオは落ち着く間もなく、変装に必要なものを調達してくると言って、再び通路に戻っていった。

 リゼットはナディアと一緒に、持ってきた荷物を広げた。

 掃除婦に成りすます必要があるかもしれないので、それらしいドレスとスカーフも持ってきた。宮殿の中で働く使い走りの少年もいるから、そのふりをするのもいいとは思っている。ただし、アンドレアスには簡単に見破られる可能性があった。

 持ち物を点検したり、これからの計画について話しているうちに、テオが戻ってきた。衛兵見習いの少年が着る服や料理人の服などだ。リゼットとナディアも宮殿巡りをしていたせいで顔を知られているが、テオも情報収集のためにたくさんの人と接触していたので、多くの人と顔見知りだった。

 でも、まさか宮殿に別人として潜入するなんて想像もしていなかったから。

「こんなものもあったぞ」

 テオが渡してくれたのは、弓と矢だった。

「どうしたの、これ」

「今、衛兵の間で的当てゲームが流行っている。花嫁試験でやってみせたそうじゃないか」
 リゼットは顔を赤らめた。

「まさか流行ってるなんて……」

「衛兵も大変だから娯楽が必要なんだ。カードゲームよりはいいと思うな」

 リゼットは弓を手に取り、軽く引いてみて感触を確かめる。

「これが役立つようなことになるとは思わないけど、慣れたものが手元にあると心強いわね」
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