皇帝陛下の花嫁公募
「ナディアが公爵夫人専用のサロンの掃除をすると言い出したんだ。あそこに何か秘密が隠されているかもしれないと。だから、俺は危険な目があったらすぐに飛び込めるように隠れようとした。ところが、その同じ場所にすでに隠れていた男がいたんだ」
「じゃあ、女スパイもサロンにいたってこと?」
「そうだ。俺は慌てて言い訳をしたが、咄嗟だからいい言い訳ができなかった。それで、居直って『おまえはどうしてここに隠れているんだ?』と訊いた。そうしたら、ナイフで刺そうとするから取っ組み合いになって……。
そうしたら、衛兵がやってきたから『こいつがスパイだ』と叫んだ。サロンから女スパイが飛び出してくるし、ナディアはそれを追いかけてきた。女は挟み撃ちで捕まり、男のほうは逃げ出したから、俺も衛兵と共に追いかけた。すると、発砲されたんだ」
リゼットはあのときの音のことを思い出した。
「誰か逃げたり追いかけている音が聞こえてきた後、銃声が聞こえて、ナディアがテオを呼ぶ声が聞こえてきたの。あのとき、わたしはちょうどアンドレアスに見つかって、どこかの部屋に閉じ込められそうになっていたけど、テオが怪我したかもしれないと思って、銃声の聞こえたほうに向かったら……」
「スパイに捕まったわけか。もう、一時はどうなることかと思った!」
ナディアは少し躊躇いながら口を開いた。
「わたしが悲鳴を上げたり、テオの名を呼ばなければ……」