皇帝陛下の花嫁公募
しばらくして、扉の開く音にリゼットははっと目が覚めた。
いつの間にか肘掛け椅子にもたれて寝入っていたらしい。
「真っ暗じゃないか。どうして灯りをつけてないんだ?」
アンドレアスが入ってきて、燭台に火をともしてくれた。すると、たちまち明るくなり、アンドレアスの顔が見える。
彼はとても疲れているようだった。
「大丈夫?」
「私こそ訊きたい。君の身体にはどこも異常がないか?」
「ええ、わたしは元気よ! 手だってもう痛くないわ!」
リゼットがスパイを倒した手を見せると、彼は心配そうな顔でやってきて、その手を取った。そして、ゆっくりと少し赤くなっている指にキスをする。
「君があそこで撃たれていたら、私も死ぬ覚悟だった」
「アンドレアス……」
「いや、皇帝としての義務があるから生きながらえていただろう。だが、心は確実に死んでいた」
リゼットは急に鼻の奥がツンとしてきて、涙が出てきた。
「ごめんなさい……。わたし、あなたにそんな想いをさせるつもりではなかったの」
「だいたい、どうして戻ってきたんだ? アマーナリアに帰るように言ったのに」
彼はそのために公爵夫人やゲオルグのほうが大事だとまで言ったのだ。
「あなたにとって、わたしが一番大事だって思ってたわ。わたしだって、あなたが一番大事。あなたの身に危険があるかもしれないと思ったら、じっとしてられなかったの」
「一体、どうやって忍び込んできたんだ?」
リゼットは門番と仲良しだったことや秘密の通路の話をした。
アンドレアスは呆れながらも言った。