皇帝陛下の花嫁公募
「俺も同じように、君と一緒にいると胸がドキドキしてくる。自分では抑えられなくなってくる。嬉しいけれど、不安にもなる。今までこんなことがなかったから。初めてのことだから、自分がおかしいんじゃないかと思うんだ」

 彼の言葉がリゼットの胸に直接響いてきた。

「それって……わたしも……」

 ぴったり同じだ。嬉しいけれど不安だ。こんなふわふわとした気持ちには初めてなった。

 だって、わたし、今までよく知らない男性とこんなに近くにいたことはないわ。

 農作業をしていたときは、もちろん少年のふりをしていたこともあったし、誰もそれを疑わなかったから、こういう機会もなかった。

 今まで一番近くにいたのは護衛のテオくらいだが、テオは幼馴染で、兄のようなものだったから、ドキドキすることはまったくなかった。恐らく向こうも同じだっただろう。

 だいたいドキドキなんてしていたら、護衛は務まらないのだ。テオはいつだって冷静だった。

「俺達、互いに恋をしているのかな?」

 恋……?

 これは恋なの?

 リゼットは目を大きく開いて、彼を見つめる。

「恋って……こういうものなの?」

 彼の目は優しく細められる。

「俺も経験はないが、人から聞いた話と似ている。少し前なら、誰かに『おまえもよく知らない娘の部屋に忍び込むときが来る』と言われても、笑っただけだっただろう」

 彼の笑顔に、リゼットも自然に笑顔になった。

 こんな訪問、彼も初めてなんだわ!
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