皇帝陛下の花嫁公募
あまりにも簡単にバルコニーによじ登ってきたし、こうして平然と隣に座るから、もしかしたら女性の部屋に忍び込むのに慣れているのかもしれないとちらりと思ったが、そうではなかったのだ。

 わたしが初めてなら嬉しい……!

 胸どころか、全身が熱くなるような喜びを感じた。

「わたし、ずっと恋に憧れていたわ。本に書いてあるみたいな気持ちになるなんて、わたしには信じられなかった。

胸がドキドキして、熱くなって、いつもの自分じゃなくて、ふわふわとした気分になるなんて……」

 そう。リゼットはずっと恋をしてみたかった。

 国のために少しでも裕福な相手と結婚しなければならない。もちろん嫌な相手と結婚しろとは言われていない。多少は選択の自由がある。それでも、王女には義務がある。最終的には父王が勧める男性と結婚しなくてはならない。

 だから……せめてその前に一度でもいいから恋がしたいと思っていた。

 想像していたとおりの恋ができて嬉しい。

 でも……。

 リゼットはふと目を伏せた。

「わたし……恋なんてしてはいけなかったのかもしれない」
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